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こうがんの異常

こうがんや袋のなかが腫れている、またはとても痛む。

陰嚢、つまり袋の中のはれ、痛みは、泌尿器科外来でよく診察する症状です。これには多くの原因がありますが、急に痛みが出た場合を急性陰嚢症と言います。時に緊急手術になる場合もあります。それぞれの原因により特徴や好発年齢がありますので、説明してみます。


図1:原因疾患の想定

年齢

精巣捻転症は思春期や新生児期に多い。
精巣付属器捻転症は学童期から思春期に多い。
精巣上体炎は性的活動期や排尿障害のある高齢者に多い。
精巣炎は思春期以降に多い。
精巣腫瘍は20~30歳代に発生のピークがあるが、乳幼児と中高齢者にも発生する。

症状

精巣捻転症の発症は就寝時に多く、陰嚢から下腹部にかけての引っ張られるような痛が突然起こる。精索の捻転により精巣は挙上している。時間の経過とともに精巣と精巣上体は塊のように触れる。痛みはとても強い。

精巣付属器捻転症は精巣ならびに精巣上体が正常に触知されるが、限局した痛みがある小さなしこりが触れる。捻転したしこりがうっ血し青い点が陰嚢皮膚を通して認める事がある。しかし、このような所見がはっきりせず、精巣上体炎との鑑別が難しい場合が多い。

精巣上体炎は性的活動期にある患者では性行為感染症に続発することが多く、原因が淋菌やクラミジアなどの性行為感染症などのことがある。その場合、尿道炎、膀胱炎、前立腺炎などの症状が先行する。高齢者では前立腺肥大症などの下部尿路の閉塞性疾患に伴うことが多く、その起炎菌は大腸菌が多い。急性の場合、精巣上体尾部より急速に精巣上体全体まで腫れが広がる。時に精巣や精索までに炎症が広がり、精巣、精巣上体が一塊となって触れることがある。疼痛は精巣上体に限局する場合から、下腹部までに及ぶような高度のものまである。40℃近い高熱を伴うこともある。

精巣炎はムンプスウィルスによる流行性耳下腺炎に続発して起こることがある。耳下腺の腫張、発熱に続き精巣の痛みが強い腫れが起こる。また、精巣上体炎から波及して発症する事もある。

精巣腫瘍は通常痛みを伴わないが、急激に進行した場合や、腫瘍内に出血を起こした場合に痛みを伴うことがある。

鼠径ヘルニアは鼠径部から陰嚢部までの連続した腫張がある。通常は痛みを伴わないが、腸が挟まり嵌頓すると陰嚢鼠径部から腹部にかけての疼痛、嘔吐を伴う。以前より陰嚢部の腫れがでた事があったか確認する必要がある。

陰嚢水腫は鼠径ヘルニアとの鑑別が困難なことや、両疾患が併発していることもある。一般に陰嚢水腫は透光性があり、鼠径ヘルニアは圧迫により元に戻ること多い。大きな水腫では陰嚢部の疼痛を伴うことがある。

精索静脈瘤 立位や腹圧時に陰嚢部や精索の腫張が増強する。ドップラー検査により鑑別が容易に可能。時に腎腫瘍や心不全などを合併していることがある。

検査方針

原因を鑑別するために、それぞれの疾患の好発年齢や症状などの特徴を踏まえた上で、超音波検査、カラードップラー検査を行なうことが多く、診断は基本的には下の図のように進めていきます。

図2

こうがんが痛みも無いのにだんだん腫れてきた。

多い原因としては、陰嚢水腫、鼠径ヘルニア、精巣腫瘍があります。それぞれの特徴は上記の通りです。ここでは20~30歳台に多く、時に命にかかわることもある精巣腫瘍について少々専門的な説明をします。

精巣腫瘍

(I)疫学

わが国の精巣腫瘍の発生頻度は10万人あたり1人で、欧米に比較し発生頻度は低い。年齢分布は特徴的な3峰性の曲線を描き、0~4歳と45歳~59歳に小さな2つのピークがあり、25歳~34歳に大きなピークがみられる。各々のピークは、腫瘍の組織型による発生機序、好発年齢の違いが有るために形成される。例えば新生児、乳幼時期には奇形腫、卵黄嚢腫が多く見られ、一番大きなピークを形成する20~30歳代ではセミノーマ、胎児性癌などの単一組織型や複合組織型が多胃というような特徴がある。50歳台でのピークにはセミノーマと悪性リンパ腫の発生が多い。

(II)解剖と病理

(1)精巣の解剖

精巣は組織学的には間質と精細管とに大別される。

精細管:一層の筋様細胞で覆われたの基底膜と、精細管内はセルトリ細胞、精粗(原)細胞からなり、内腔に向かって生殖細胞(胚細胞、germ cell)が分裂していき精子を形成している。

間質:ライデッヒ細胞、マクロファージ、リンパ管、血管からなる。ライデッヒ細胞ではテストステロンの合成が行われている。

(2)精巣腫瘍の病理

精巣腫瘍の90~95%は胚細胞(生殖細胞)を起源とする胚細胞腫瘍(germ cell tumor)である。胚細胞腫瘍には単一組織型といくつかの組織型が混じった複合組織型がある。以下の組織型が単一で存在したり、複数の組織型が混在したりする。

  1. セミノーマ:精巣腫瘍の約40%を占め、最も頻度の高い組織型である。20~50歳台に多く、小児では稀である。腫瘍細胞は胚細胞に似た大型類円型でクロマチンが粗い核と淡明な細胞質を有する。
  2. 精母細胞性セミノーマ:単一組織型をとり、一般に予後が良い。
  3. 胎児性癌:単一組織型の中ではセミノーマについで多い。複合組織型の中では最も多く、セミノーマや卵黄嚢腫、奇形腫などと複合組織型をとる。20~30歳代に好発する。
  4. 卵黄嚢腫瘍:小児では単一組織型として発生することが殆どだが、成人では胎児性癌、奇形腫などとともに複合組織型をとることが多い。αフェトプロテインの上昇をみる。
  5. 絨毛性腫瘍:易出血性で合胞性栄養細胞、細胞性栄養細胞からなる。HCGやβHCGの上昇をみる。単一組織型は稀で複合組織型の一成分として存在することが多い。予後不良のことが多く、risk factorのひとつである。
  6. 奇形腫:胎児性癌が3胚葉への分化を呈した腫瘍としてとらえられている。成熟方、未熟型、悪性化の3種類がある。
  7. その他:胚細胞腫以外としてはライディッヒ細胞腫と悪性リンパ腫などがある。

(III)診断

(1)症状と兆候

無痛性の精巣腫大を主訴とする事が多いが、約30%の症例では疼痛を訴える。時に精巣上体炎、精巣捻転などとの鑑別が困難なことがある。特に小児の場合は、痛みの有無がはっきりしないことが多く、鑑別に難渋することがある。まれに陰嚢水腫を併発した症例があるので注意を要する。また、転移巣による腹部や、胸部症状を主訴とすることがあり、約5%に乳房部痛など内分泌症状を呈する症例がある。絨毛癌では原発巣触知不能例もある。

(2)検査

  1. 陰嚢部超音波検査、精巣ドップラー検査は、他疾患との鑑別に必須の検査である。
  2. 血算、生化学検査、腫瘍マーカー(α-フェトプロテイン、CEA、β-HCG)の測定を行う。LDHや各種腫瘍マーカーの上昇をみることが多い。
  3. 胸部X線撮影、腹部超音波検査、CT、MRIによる転移巣の診断。

(3)鑑別診断

  1. 精巣上体炎
  2. 精巣捻転
  3. 精巣炎
  4. 鼠径ヘルニア
  5. 陰嚢水腫

(4)病期診断

【日本泌尿器科学会病期分類】
  1. I期 転移を認めない。
  2. II期 横隔膜以下のリンパ節にのみ転移を認める。
    1. IIA腹部腫瘤を触知せず、後腹膜転移巣が長径5センチ未満のもの。
    2. IIB腹部腫瘤を触知する、もしくは後腹膜転移巣が長径5センチ以上のもの。
  3. III期 遠隔転移。
    1. III0 腫瘍マーカーが陽性であるが、転移部位を確認し得ない。
    2. IIIA 縦隔または鎖骨上リンパ節(横隔膜以上)に転移を認めるが、その他の遠隔転移を認めない。
    3. IIIB 肺転移。
      1. IIIB1 転移巣が4個以下でかつ長径が2センチ未満のもの。
      2. IIIB2 転移巣が5個以上、または長径が2センチ以上のもの。
    4. IIIC 肺以外の遠隔転移。

(IV)治療と予後

精巣腫瘍は、近年のCDDP(シスプラチン)を中心とした多剤併用化学療法により、セミノーマ、非セミノーマとも飛躍的な予後の向上がみられた。一般にセミノーマは非セミノーマより予後はよい。Stage I セミノーマ では約15~20%に除精巣術後再燃を認め、死亡率は1.2%とされている。この再燃を予防するため除精巣術後に放射線療法を追加した場合、再燃率は5%以下となり、死亡率は1%以下と低下するとされている。

Stage I 非セミノーマは約30%に術後再燃を認めるが、術後の補助治療法として化学療法をするか、後腹膜リンパ節廓清をするか、それとも除精巣術のみで経過観察していくという選択枝がある。いずれを選ぶかについては、いくつかのrisk factorの有無が参考になる。血管浸潤、リンパ管浸潤、未分化細胞を含むである、αフェトプロテインなどのマーカーが異常に高値を示す。または、絨毛癌成分の混入やHCGが高値などがリスクファクターとされている。これらのファクターを3つ以上含むものは化学療法を考慮すべきである。

転移巣を認める精巣腫瘍ではセミノーマでは化学療法、限局するリンパ節への転移のみならば放射線療法か化学療法が選択される。転移巣を有する非セミノーマでは化学療法が第一選択となることが多い。

各種治療

手術

高位除精巣術:全症例でまず腫瘍の摘除を行い、組織型を決定し治療方針を決める。化学療法などを行なっても残存する腫瘍に対して後腹膜リンパ節廓清術が行なわれることがある。

化学療法(現在のところ、いずれかを第1選択とする施設が多い)

  1. BEP:ブレオマイシン、エトポシド、CDDPによる化学療法。
  2. PVB:ブレオマイシン、ビンブラスチン、CDDPによる化学療法。BEP療法とともに第一選択となることが多い。

放射線治療

特にセミノーマは放射線の感受性が良好なことが多く、stageIセミノーマに再発予防を目的として放射線照射を行うことがある。また、stageIIセミノーマに対しても照射を行うことがある。