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性機能障害とは?

性機能障害sexual dysfunctionとは、満足に性交が行えない状態のことを指す。男性の場合、「性欲、勃起、性交、射精、極致感(オーガズム)のいずれか1つ、またはそれ以上が欠如するか不十分なもの」と一般的に定義されている。勃起障害erectile dysfunction(ED)は性機能障害の中に含まれる。

勃起障害 erectile dysfunction(ED)

現在、世界中の成人男性の5~20%がEDであるとされている。さらにこの数字は人口の高齢化とともに増加し、2025年には倍増すると予想されている。我が国において、1998年に行われた疫学調査では、30~79歳男性におけるED患者数は約1,130万人と推定された。とりわけ、高齢化の著しい我が国では今後さらに患者数は増えることが予測されている。高血圧患者1,320万人、糖尿病患者472万人と比較すると、ED患者が非常に多いことがわかる。2000年のEDおよび治療に関する一般市民意識調査では、既婚男性の30%がEDを自覚しているとの報告もある。

EDの分類は、身体に問題のない機能性と問題のある器質性に分けられる。機能性には心因性と精神病性、器質性は血管性、神経性、内分泌性、陰茎性に分類されるが、心理的なものやそれぞれの身体的障害が重複する場合もある。

[機能性勃起障害]

(1)心因性勃起障害

心因性EDの原因としては、母親との関係mother complex、宗教的教義信奉、性行為に対する高度の嫌悪、拒否感などがその背景に存在する。自慰行為すら自ら試みることをしない高度の例、自慰行為は可能だが異性との性行為は不可能な例がある。後者の例としては自分の性器の大きさ、形態に対して極度に劣等感を有している(実際はそれほど問題ない)といったような例をあげることができる。また、夫婦間のトラブル、精神的葛藤、互いの性的欲求の食い違いや性的魅力の消失、加齢、仕事の疲れなどはよく見られる原因である。配偶者とは不能だが、他の異性とは正常に性行為ができるという例もある。青年の場合、初体験時にパートナーから性行為の稚拙なこと、性器の大きさ、形態についての侮蔑を受けた恥辱感がその端緒になるか、初体験時の焦燥感、羞恥心が原因となり、性行為をうまくできないのではないかという危惧と自信喪失が勃起不全の原因にもなる。

(2)精神病性勃起障害

うつ病と統合失調症が多い。これらの勃起障害の原因は薬物、妄想、うつ状態であるが、泌尿器科医では治療が困難なことが多く、精神科医と十分なコンタクトを要する。

[器質性勃起障害]

(1)血管性勃起障害

動脈性、静脈性がある。動脈性には動脈硬化や手術や外傷によることが多い。下大動脈分岐部付近の血栓形成に伴う血行障害により陰茎への血流量が減少し、勃起障害をきたす(Leriche症候群)。静脈性は陰茎海綿体と陰茎白膜の間を通過する流出静脈の閉塞障害により起きる。

(2)神経性勃起障害

脳、脊髄、末梢神経系の器質的疾患、外傷などに伴う勃起障害である。勃起減少に関与する神経系(陰部神経、骨盤神経など)および血管系の異常を伴っていることが多い。

(3)内分泌性勃起障害

精巣機能不全、副腎皮質、甲状腺、下垂体などの機能異常に伴うものがある。

(4)陰茎性勃起障害

性器異常など解剖学的以上による者で、尿道下裂、尿道上裂、Peyronie病、陰茎発育不全症、高度の包茎などでしばしば形成手術を要する。

[リスクファクター]

(1)加齢

加齢とともにEDの罹患率は上昇している。日本人とアメリカ人を比較した疫学調査でも、日本人の方が性機能の低下が著しく、70代では71%がEDであると報告されている。加齢によるEDの原因としては、生理的な加齢プロセスに加えて、後述する種々のリスクファクターが加齢と共に増加することによると考えられている。

(2)喫煙

喫煙は血管内皮障害を引き起こすことはよく知られており、喫煙が冠動脈疾患や脳血管障害のリスクファクターであるのと同様に、EDの独立したリスクファクターであると考えられている。

(3)高血圧

高血圧患者におけるEDの原因は、降圧剤による副作用という面も考慮に入れないといけないが(薬剤性EDとして後述)、多くの患者が高血圧治療開始前にEDを自覚しており、高血圧自体がリスクファクターであるといえる。発症機序に関しては、陰茎血管や海綿体の構造変化と内皮の障害が高血圧によるEDの発症原因と考えられている。

(4)糖尿病

糖尿病患者は非糖尿病患者に比べ、ED発症リスクは3倍とされる。糖尿病性EDは基本的に器質性EDである。慢性に経過し、進行性であるが、糖尿病の初発症状であることもある。糖尿病患者においては、無痛性心筋梗塞の頻度が高いことが知られており、EDは合併症のない糖尿病患者の無痛性心筋梗塞の予知マーカーとして重要である。合併症のない糖尿病患者では、EDを治療する前に運動負荷心電図検査を行う必用がある。糖尿病によるED発症の機序としては、自律神経障害、陰茎の血管と海綿体の内皮細胞の障害などが考えられている。

(5)心血管疾患

多くの心血管疾患患者がしばしばEDを自覚していたこと、心血管疾患とEDがリスクファクターを共有し、病理学的基礎(内皮障害)を共有する。また、EDの罹患および発症はその後の心血管系イベントを有意に予測するという結果も報告されている。したがって、原因のはっきりしないEDであれば、心疾患の合併を常に念頭に置くべきであろう。

(6)肥満および運動

肥満の男性は適正体重の男性に比べ、EDのリスクが高まる。ED予防の面からも治療の面からも適度な運動を指示することが推奨される。

(7)うつ病

うつ症状のあるED患者に対して、薬剤投与によって勃起機能が改善した患者はうつ症状も有意に改善することがわかっており、このことは両疾患の関連を強く示唆するものである。

(8)下部尿路症状・前立腺肥大症

EDが合併する機序としては、骨盤内の虚血などが共通する因子と考えられている。下部尿路症状・前立腺肥大症の治療は、α遮断薬による薬物療法も手術療法も勃起機能を改善するという証拠があり、積極的な治療が勧められる。

(9)薬剤

降圧剤、抗うつ剤、抗精神病剤、抗てんかん剤、睡眠剤、抗潰瘍剤、抗男性ホルモン剤、脂質異常症治療剤など多くの薬剤がEDを引き起こすことが知られている。薬剤性EDの原因となる薬剤の大半は降圧剤、精神疾患の薬剤であることから、それらの疾患の治療はEDの治療よりはるかに重要であるが、患者にとっては重要度が逆転することもある。降圧剤に関しては、よりEDが発症しにくいとされるACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗剤(ARB)が推奨されている。