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前立腺癌の治療

治療方針

前立腺がんは病期によって治療方針が大きく異なります。主に全身治療としての内分泌療法(ホルモン療法)や化学療法、局所療法としての前立腺全摘や放射線療法などがあります。

経過観察:

何の治療もせずに経過を見ていく方法です。具体的には外来で定期的にPSAを測定し、厳重に病気の進行がないか観察していきます。PSAが上昇したり何らかの症状が出現した場合には直ちに治療を開始します。

一般に前立腺がんは進行の遅いがんとして知られています。特に早期がんでかつ悪性度の低いがんの場合、進行して生命に関わる状態になるまで長い年月がかかるとされています。そこでこうした経過観察という方法がとられることがあります。

この方法の長所は、治療に伴う副作用や合併症を避け、現在の生活の質を維持できることです。一方、短所としては治療開始がどうしても遅れるため治療成績が悪くなる可能性があることです。

したがって、この方法の対象としてはPSAが低く悪性度も低い早期がんの高齢者が最適ですが、こうした条件を満たす患者さんはそれほど多くありません。

根治的前立腺全摘:

手術によって前立腺・精嚢を摘出する治療法です。前立腺の中にがんがとどまっている限局性前立腺がんであればがん細胞をすべて体外に取り出すことになるため、もっとも根治性の高い治療法になります。したがって早期がん(限局性前立腺がん)がよい適応となります。早期がんの場合、他の治療法でも5年程度は治療成績はかわらないため原則として75歳を越えた患者さんは手術の対象となりません。

手術の方法としては、開腹で行う方法と腹腔鏡を用いて行う方法があります。

当科では手術の侵襲を最小にするために約6cmの小切開で前立腺全摘(ミニマム創前立腺全摘)を行っています。手術時間は3~4時間、入院期間は約2週間になっています。

合併症として出血、尿失禁、ED(勃起障害)などがあげられます。

出血に対してはあらかじめご自分の血液を800ml貯血することで輸血を避けることができます。勃起神経(陰茎海綿体神経)を温存しなければEDは必発ですが、神経温存術を行うことにより約半数の患者さんの性機能を保つことができます。

放射線治療:

前立腺そのものに放射線を照射する治療法です。転移のない限局性前立腺がん、局所進行がんが対象となります。照射方法により外照射と内照射(小線源療法)に分類されます。当院ではリニアックによる外照射を行っています。1回の照射は数分で週3回7週間かけて治療します。入院は必要とせず外来での治療が可能です。当院では治療成績を向上させるため治療前に半年以上のホルモン療法を先行させています。早期がんの場合、放射線治療でも完治する可能性はありますが治療成績は前立腺全摘には劣ります。体の負担が少ないため高齢者や前立腺全摘に伴うEDや尿失禁のリスクを避けたい場合に良い適応となります。

副作用としては治療中に起こる急性期症状と治療後数年してからおこる晩期症状があります。急性期症状としては頻尿、排尿時痛、血尿、下痢、血便などが起こる可能性がありますが、通常これらの症状は軽微で一過性です。晩期症状としては頻尿、血尿、尿道狭窄、血便などがあります。これらは一度症状が出現すると難治性ですが出現頻度はきわめてまれです。

この他、外照射にはより厳密に前立腺に集中して照射が可能なIMRT(強度変調放射線治療)やよりエネルギーの高い粒子線(重粒子線・陽子線)治療がありますが実施可能施設が限られます。また、前立腺内に放射線を発生するシードと呼ばれる小さなカプセルを埋め込み、前立腺の中から放射線を照射する小線源療法があります。限局性前立腺がんに対しては前立腺全摘に匹敵する治療成績ですが、現時点では当院では行っていません。

ホルモン(内分泌)療法:

前立腺がんは男性ホルモン依存性という性質を持ち、男性ホルモンがないと前立腺がん細胞は死滅してしまいます。この性質を利用して男性ホルモンが前立腺がん細胞に取り込まれるのを遮断する方法がホルモン療法です。男性ホルモンはその95%が精巣(睾丸)、5%が副腎で産生されます。

両側精巣摘出術(除睾術):

男性ホルモンの主たる産生部位である精巣を手術で摘出する方法です。手術は下半身麻酔で行い、約1時間で終了します。約1週間の入院が必要です。最近は後述するLHRHアナログ製剤があるためあまり行われなくなりましたが、一度手術すれば相当期間の効果が期待できるため、外来通院が困難な高齢者や経済的負担を軽減したい場合には良い治療法です。主な副作用は性欲の減退、勃起障害、ほてり、発汗です。

LHRHアナログ:

精巣が男性ホルモンを産生する場合、LHRHという脳からのホルモンの刺激が必要です。LHRHアナログはこのホルモンの類似物質ですが、この薬剤を持続的に投与することにより精巣からの男性ホルモンの産生を抑制することが可能で、精巣摘出術と同等の治療成績が期待できます。具体的には月1回外来にて皮下注射を行います。効果が安定すれば3ヶ月効果が持続する製剤も使用できます。 

主な副作用は精巣摘除術と同様性欲の減退、勃起障害、ほてり、発汗です。長期間の投与では骨粗鬆症や筋力の低下が見られることがあります。

抗アンドロゲン剤

男性ホルモンが前立腺がん細胞に取り込まれるのを阻害します。このため、LHRHアナログでは押さえることができない副腎で産生される男性ホルモンの作用も押さえることができます。多くの場合、LHRHアナログと併用して使われます。

副作用にはほてり、発汗、勃起障害、悪心、肝障害などがあります。

女性ホルモン剤

女性ホルモン剤はLHRHアナログ同様、精巣を刺激するホルモンを抑える作用があります。また、前立腺がん細胞を直接たたく作用もあります。がんに対する効果は強いのですが、副作用も多いので投与には注意が必要です。

主な副作用は心血管系障害(狭心症、心筋梗塞、心不全、脳梗塞)、浮腫、乳房の増大、悪心、胃部不快感などがあげられます。

副腎皮質ホルモン(ステロイド)

副腎の皮質から分泌されるホルモンです。作用機序は十分には解明されていませんが、副腎からの男性ホルモンの分泌を抑えたり、がんの増殖に関連している様々な因子を抑えたりすることがわかっています。他のホルモン療法が効かなくなった場合でもしばしば有効なことがあります。

副作用として糖尿病の悪化、胃潰瘍、皮膚や骨がもろくなることがあります。

化学療法

ドセタキセルという抗がん剤が用いられます。ホルモン療法が無効になったケースでも効果が見られることが多いです。点滴で投与しますが、他の抗がん剤と比較して副作用が軽いため3~4週ごとの外来での治療が可能です。

副作用として全身倦怠感、食欲不振、むくみ、白血球減少、アレルギー、手足のしびれなどがあげられます。

治療法の選択

病期によって主に次のような治療方針がとられます。

  1. 病期A:通常は経過観察となります。前立腺がんが進行することはまれですが、数年たってから前立腺がんの進行が見られることがあるので、定期的なPSA検査は必要です。
  2. 病期B:根治が期待できる状態です。もっとも根治性の高い治療法は前立腺全摘です。また、放射線治療も高い効果が期待できます。
  3. 病期C:放射線治療が一般的です。放射線治療や全摘手術にホルモン療法を組み合わせて根治が得られる場合もあります。
  4. 病期D:ホルモン療法・化学療法が中心になります。